はじめに
お子様の習い事の選択は、保護者の皆さまにとって大きな関心事の一つですね。
脳性麻痺のあるお子様を育てる中で、「音楽が好きだからピアノを習わせてみたいけれど、上手くできるかしら・・・?」といった不安を感じるかもしれません。
音楽は多くの人が楽しむことができる素晴らしい活動です。適切な工夫や支援があれば、障がいのある方も音楽を存分に楽しむことができます。
脳性麻痺とは
脳性麻痺は、出生前や出生時の脳への損傷が原因で引き起こされる運動障害です。
四肢の麻痺や筋肉の硬直、不随意運動など様々な症状がみられ、日常生活に影響をきたします。
今回は、脳性麻痺のある子どもに向けた工夫や、ピアノを習うメリットについてお話しします。症状や重症度は一人ひとり異なるため、一例として参考にしてください。
工夫次第でピアノが弾ける!

課題1:両手の演奏が難しい、鳴らせる音数が少ない
動かせる指が限られていたり、筋肉が硬直して腕や手首の動きが制限される場合があります。そうした際は以下の対策が有効でしょう。
・連弾で演奏する
連弾とは、二人でひとつのピアノを演奏する方法です。一人がメロディー、もう一人が伴奏を分担することで、音に厚みが生まれます。お子さまのできる範囲で楽しみながら、音楽の素晴らしさを体験できます。
・電子伴奏ツールやエレクトーンの自動伴奏機能を活用する
ミュージックプレーヤーやエレクトーンの自動伴奏機能を活用すれば、メロディーを弾いただけでも、豊かで華やかな演奏に仕上がります。さらに、これらの機器には多彩な音色が用意されているので、本格的なピアノの音色からオーケストラの演奏を彷彿とさせる音色まで、様々な雰囲気を楽しむことができます。中には、AIを使用した自動伴奏ツールも開発が進んでいるようです。
ピアノ教室の中には「伴奏くん」と呼ばれるヤマハ製の専用伴奏ツールを使っているところもあります。このツールでは、お好みの伴奏パターンを選んで再生することができます。さらに、お子さまが片手でメロディーを弾いている間は、もう片方の伴奏パートを自動で演奏してくれる機能があります。このように、適切な補助があれば、演奏を手厚くサポートしながら楽しくピアノに親しむことができるのです。
「伴奏くん」についてのページはこちら
https://yamahamusicdata.jp/case
課題2:演奏時の姿勢のキープが困難、鍵盤操作が難しい

筋肉の硬直や上半身のつっぱりなどにより、安定した座位姿勢が保持できない場合や、手指の動きが制限されて確実な鍵盤操作が難しい場合があります。そういった際には、以下のようなアプローチが有効でしょう。
・専用椅子の活用で適切な姿勢をサポート
脳性麻痺のあるお子様向けに開発された椅子を活用すれば、安定した姿勢でピアノに向かいやすくなります。

こちらの写真は、実際に脳性麻痺のある生徒さんが使用している椅子です。演奏する時の姿勢がキープできます。この椅子を使用している教室についてはこちら⬇️

・スマートグローブの活用で指の可動域を広げる
スマートグローブは指の動きをサポートし、確実な鍵盤操作を可能にします。音が鳴るセンサー付きのものもあり、手指の動作範囲に合わせた演奏をしやすくなります。
・訪問レッスンの利用
公共の施設や教室での椅子や設備が合わない場合、あるいは移動が困難な場合は、ご自宅にピアノを設置し、講師に訪問していただくのも一案です。
ピアノ習得による運動機能の改善

脳性麻痺のある方へ音楽が及ぼす影響についての研究が行われました。
韓国の大学の研究チームによって行われたもので、音楽療法が脳性麻痺のある子どもの運動機能や生活の質の改善にどのように役立つかを調べたものです。
Yangら(2022)の研究によると、音楽療法は脳性麻痺児の運動機能や生活の質の改善に役立つことがわかっています。
リズム運動訓練、楽器演奏、音の刺激などのアプローチにより、体の動きがスムーズになり運動能力がアップするそうです。つまり、ピアノなどの音楽活動は、リハビリの一環として子どもの発達を後押しする可能性が高いのです。
研究者らは「音楽療法は脳性麻痺児のリハビリにおいて、有望な補完的アプローチになり得る」と指摘しています。音楽を楽しみながら運動能力を高められるのは素晴らしいことですね。
Yang, S., Suh, J., Kwon, S., & Chang, M. (2022). The effect of neurologic music therapy in patients with cerebral palsy: A systematic narrative review. Frontiers in Neurology, 13. https://doi.org/10.3389/fneur.2022.852277.
さいごに

ピアノを習得する際には課題もありますが、適切な工夫と支援さえあれば、十分にピアノを楽しむことができます。さらに音楽活動を通じて、運動機能の向上も期待できるのです。
ピアノを弾きながら音楽の喜びを味わえるだけでなく、運動能力の向上にもつながるのであれば、それは素晴らしい活動と言えるでしょう。ぜひピアノ始めることを検討してみてはいかがでしょうか。音楽を通して、お子さまの可能性がより広がっていく機会になるかもしれません。